お洒落な街中で雰囲気のあるクルマのシーンを作る

月刊コンピュータグラフィックスワールド2003年3月号「3DCG静止画道場」

Spider_GW.jpg私がクルマを扱った作品を作る際、クルマ自体のディティール以上にその環境に最も神経を使います。私にとって街並や風景は単なる「背景」ではなくむしろ主役であって、クルマはその環境を映し出す媒体のような役割を果たしてくれることが理想なのです。同じクルマでもその存在する時間や場所によってさまざまに表情を変えていきます。クルマとはその場所の空気感を投影する鏡のような存在であって、全身に光や街並を映し込むことで初めてフォルムが浮かび上がってくる。そんな情景にとても心を惹かれ、それが僕がクルマをモチーフに作品を作る動機のひとつです。今回、筆者の愛車でもありますアルファロメオ・スパイダー・ベローチェを題材にしてイルミネーションに照らし出されたヨーロッパ風の街並とその空気感を表現してみました。

スパイダーは1966年から1992年までの26年間、基本的なモデルチェンジなしに数々の時代を駆け抜けて来た大変長寿なクルマだけあって、どの年代の風景にも違和感なく溶け込んでしまう不思議な魅力を持っています。Sr4の最終モデルをモチーフとしました。

1.イメージを構成する材料


私は人工の光が好きです。もちろん太陽光の自然光に照らされた情景にも趣きを感じますが、電球色の光にとても温もりを感じてしまうのです。夕暮れのヨーロッパの都市を歩くと東京に比べて白色灯の比率が少なく実際には照度も低いので全体に薄暗いのですが、その暗さに目が慣れてくると影に感じていたところがぼーっと浮かびあがり街灯や店内から漏れる光で街全体がオレンジ色に輝き、まるでそこの空気が黄金色に色付いているかのように優しい光に包まれる感覚を覚えます。その時感じた空気感をなんとか表現してみようというのがこの作品を構成していく上での第一のテーマです。そこでその雰囲気が最も顕著に表れるクリスマスシーズンのイルミネーション装飾に彩られた街並の中でアルファロメオ・スパイダーが全身に無数の光を映し出している情景をイメージして製作に入りました。

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画面左:その雰囲気が最も顕著に表れるクリスマスシーズンで、イルミネーション装飾に彩られた街並の中に、スパイダーが全身に無数の光を映し出している情景をイメージして製作に入った。
画面右:全てSTRATA3D proのベジェオブジェクトで製作した。STRATAのモデリング機能はクルマを製作するには不自由な面が多いのだが、ベジェで作られたオブジェクトはレンダリング時に内部的にもポリゴン化されず滑らかな面で極めて正確な映り込みを再現してくれる。

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今回のもうひとつの主役がけやきに装飾されたイルミネーション。光源は実際にライトを設置し、ボリュームライトを使用することで発光させている。各樹木にはそれぞれ1250灯づつのポイントライトを配置した。


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街の建築物はVectorWorksで基本的なモデリングをし、STRATAにインポートし、点景を加えている。クリスマスシーズンのパリの写真資料を参考に製作した。小さな要素のひとつひとつが街の雰囲気作りには重要になってくるので、ある程度しっかり作り込む必要がある。


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雨あがりのようにきらきらと輝く質感の路面がこの作品の印象を決定づけている。この反射を表現する為、路面自体の映り込みの設定は95%というほとんど鏡に近い数値まであげ、非常に粗いバンプをかける事で映り込んだ光を拡散させている。
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街の賑わいを演出する為、数種類のクルマを点景として配置している。映り込みを多少オーバーなぐらいに設定し街の灯りをより映し出すようにした。





2.作品の構成・構図について考える

縦構図の場合、視線の移動は主に上下に動く事になります。演出的には下方のスパイダーのフロントのイルミネーションの映り込みが目に入り上方のけやきへと目線が移るような効果を狙いました。上部の明るいイルミネーションに対して下部のそれに照らし出されるスパイダーというように主要な要素を上下に分けることで、安定した構図が得られたと思います。また通常クルマの写真などでは200mm前後の中望遠レンズを使ったものを多くみかけますが、これはクルマのフォルムがもっとも美しいとされるレンズなのだそうです。しかしこの作品ではあえて35mm程度の広角の画角にすることで、ボンネットの大きな面を強調した、より遠近感を感じさせる構図にしました。

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まだラフの段階でベストなアングルを検討した。当初左のアングルで進めていたが、街の広がり感に乏しくスパイダー自身のフォルムもあまり魅力的に見えない為、最終的に右のアングルで決定した。

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横位置の構図も悪くはないが、注視点が横方向へ動いてしまう為ポイントが定まらず、今回のテーマの場合コンセプトが伝わりづらい。


今回一点だけ妥協せざるをえない事がありまして、屈折を利用した球のオブジェクトをカメラに重ねて周囲を若干魚眼レンズのように彎曲させる効果を出そうと準備を進めていたのですが、今回最終的に2次元エフェクトのフィルターを使用する為、屈折させた画像の上ではエフェクトの位置がずれてしまう事に最後になって気付き、残念ながら断念しました。2次元エフェクト類はあくまでレンダリング後にその本来あるオブジェクト位置に疑似的な効果としてかけるものなので、屈折をさせることが出来ないのです。このレンズ効果は広角にカメラを設定した際、周囲が大きく延びてしまうゆがみを調整する際よく用います。とくにカメラを下に振る場合には建築の上方が広がってみえるので実際のカメラと同様の効果で若干彎曲させることで自然に見せられる場合があります。


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左がレンズ効果を使用した例。効果がわかりやすいように路面はグリットパターンにしてある。同じ立ち位置でカメラを広角にしただけの右と比べるとやや視野角が広くなり、周囲が彎曲しているのがわかる。気付かれない程度に使うのがいい。
屈折を設定した透明のテクスチャーを適用した球の中にカメラを入れることでレンズのような効果が現れる。広角度の調整は球の中心からカメラまでの距離を調整する方法と、屈折率の数値を調整するどちらの方法でも可能。



3.ディティールについて

スパイダーのボディの質感は通常よりも映り込みを強調し60%まで上げています。また映り込みの反射回数を2回に設定することで、路面の映り込みがさらにボディに映り込むことでボディ下部が明るく照らされた効果になっています。反射回数がデフォルトの1回だと下部の路面の映り込みが黒く表現されてしまいます。またこれ以上反射回数を増やすことは路面が明るくなりすぎる為、あえてしていません。スパイダーの左側側面に写し込む為、道路の対象側にも建築類を配置しています。


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スパイダーのテクスチャー設定。通常より映り込みを強くしている。


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映り込みの反射回数を2回にし、路面の映り込みがボディに反映されるようにした。また道路の対象側にも建築類を配置し映り込ませている。


けやきのイルミネーション装飾は、ボリュームライトによって光源のように見せています。当初イルミネーションは「ホットスポット」のみで表現しようと考えていましたが、これはあくまで2次元のフィルター効果なのでクルマのボディに映り込ませることが出来ません。スパイダーのボンネットに映り込むイルミネーションも今回の重要な主題のひとつです。そこで映り込みも反映されるボリュームライトを併用する事にしました。ライトにフォグのテクスチャーを適用すると照射距離の範囲で球状の霧に充満した架空のオブジェクトが作られる為、その範囲内でライトの発光を可視化することが出来ます。


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オブジェクトプロパティのFXタブでフォグのテクスチャーを選ぶと、照射範囲に架空の球体オブジェクトが作られその球体の範囲内に於いてライトを可視化することができ、他のオブジェクトに映り込むこともできる。


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ホットスポットの効果を加えるとと発光感が増す。ただし「障害物」にチェックを入れているとボリュームライト自身が障壁となって効果が現れない為、別にレンダリングをして合成することにした。




4.ライティング・仕上げについて


冒頭に述べたコンセプトのように、クルマ自体は環境の光や景色によって結果的に浮かび上がる効果を狙っている為、あえてスパイダー自身に向けての演出的なライティングはしていません。あくまで環境作りをした結果に自然とフォルムが浮き立つ状況が理想です。この中で主要な光源は、けやきのイルミネーションからの光でしょう。イルミネーションが発する色温度の低いオレンジの光でアンビエント光のように街に充満する雰囲気を表現する為に各樹木から7〜9灯程度のポイントライトを影なしと影ありを織りまぜ、計120灯の光源が基本のライティングになっています。基本的に全ての光源に彩度の高いオレンジ色を設定してあります。また路面から照り返す間接光を路上の下から上向きに計50灯の影ありのスポットを配置しました。この際、路面は影を落とさない設定にしておくことで路面が光を遮断しないようにしてあります。またスパイダーの周囲にも3灯照り返し用のスポットライトを配置しました。


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けやきのイルミネーションから発する光としてポイントライトを各樹木の周辺に配し、路面からの照り返し用に上向きのスポットライトを道路の下に配置した。


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スパイダーの周囲にホイールとエンブレムがうっすらと浮かび上がる程度に3灯照り返し用のライトを配置した。


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全てのライトは暖色のオレンジ色に設定している。


イルミネーションの発光感を増す為に「ホットスポット」を適用したダミーオブジェクトをボリュームライトと同位置に設置し、単独でレンダリングした画像をPhotoshop上でスクリーン合成しました。レンダリング画像はシャープに出過ぎていた為、全体に「ぼかし」フィルタをかけ、カラーバランスでハイライト部分を赤10%黄10%程度加えました。更に画像を複製し、10pixel程度のガウスぼかしをかけたものを30%の透明度でスクリーン合成で重ね、ソフトフォーカス的な効果をつけて完成です。


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ホットスポットを単独でレンダリングした画像をスクリーン合成で重ねた。


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ガウスぼかしフィルタをかけた画像をスクリーン合成で重ね、多少ソフトフォーカス効果を加えた。




[2003年3月1日発行 月刊コンピュータグラフィックスワールド掲載記事より]


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